――昼寝から起きた夕方、自分が泣いていたことに気づいた。
さっきまで楽しい夢を見ていたはずなのに。起きた時はひとりぼっちで、ベットの窓、カーテンの
隙間から薄暗い雲が見えると、ひどく非現実的
な気持ちになる。時間の中に置き忘れたままの、
油絵の中の主人公になったような気持ちだ。(う
まく言えないけど)。結局、情緒不安定で。そん
な時の僕は、たくさんの記憶を鮮明に思い出すことができる。匂いや息
遣いまでも。
★★★
15歳の秋から冬にかけて、自由になるほとんどの時間を僕とその少女
は、公民館と一緒になったふるぼけた『町立図書館』ですごした。友達
といえる友達が(友達というものが、心が通った温かい関係だとしたら)
いない僕に、どうして彼女が興味をもったのかはわからない。僕が『不
規則動詞一覧表』を暗記しているそばで、彼女は机につっぷして寝てい
た。冬の淡い日差しが、書架の間に光りの塵をうつしていた。それはま
るで、第二次大戦末期のベルリン博物館のような静けさであったし、ま
た、パブロ・ピカソが愛情のおもむくままに描いた、愛妻のイラストの
ようでもあった。
★★★
――そして彼女は泣いていた。机につっぷして眠りながら泣いていた。
彼女は夢を見たという。『海に雨が降っている夢』を。見渡す限りの大
海原に、細く冷たい雨が降りしきる風景。それがただずっと続いていて。
『とても穏やかなの。ただひたすらね。穏やかなのよ。ね。イノウエ君は
わかる?海の上に降る雨って不思議じゃない?』
■朝起きたら泣きながら寝ていたことに気づ
−IRO& CHEMICAL CORPORASHIONS


