
築城で大事なのは「縄張り」、構造なんだ。……
この城は関東平定を目ざす秀吉の1万5千の軍勢
に力攻めされ、一日で落ちた。篭城らしい篭城を
する暇もなかった。
「……面白い?」『うん。』
昨日、会社で「城跡を見に行く」というと。亜美
ちゃんが
『アタシも行く』とせがんで。
僕らは人気ない晩秋の森の小道を、枯葉を踏みながら並んで歩いた。
二人の間に色あせた冬の写真のような時間が流れた。
★★★
「とてもうまくできてる。」『何?』この子はいつも相手の目をしっか
り捕らえてから話す。
「美しい。機能的に。完結している」だけどこの
山城は人を守れず、そして誰もいなくなり歴史から忘れ去られ、完結し
たまま時は積み重なっていく。深海につもるプランクトンの死骸のよう
にね。
……僕はそんな『時間』を感じる場所が好きなんだ。『レイ・ブラッドベリの小説のように。』
そう!亜美ちゃん。まさにレイ・ブラッドベリの小説だよ。
★★★
本丸の石垣跡に座ると、さびしげな多摩丘陵が一望でいた。『まだ、す
ごくあったかいよ』と言って、亜美ちゃんが、魔法瓶からコーヒーを渡
してくれる。あと小一時間もすれば、街に灯りがともりはじめるだろう。
「僕らはね。今。完結した時間の中にいる。」意地悪な言葉に、亜美ち
ゃんが黙る。黙ったまま、ずっと足元の枯葉をつま先で弄んで。
でも、でもアタシは先へ進まなければならない。行く先がなくて
も行き止まりでも、答えがなくても、悲惨な結末でも、アタシは
あなたから学ばなければならない。アタシはそう考えてる。『アタシが成長するために、必要なことだと思うから』それは一時の愛情よりも、繊細ではかない何かだ。僕は、言いかけて口
をつぐんだ。
■それは一時の愛情よりも繊細ではかない何かだった