部活の帰りらしい制服の《チカ》ちゃんはそう言うと、僕のとなりにどかっと座りこんだ。片膝で
あぐらをかくと女性週刊誌をペラペラめくりはじ
め「なんだよ、エロ記事はねえのかよ。夏のセッ
クス白書」と不満げにつぶやく。それから、待合
室の水槽を見ながら、
『なんで歯医者にはきまって熱帯魚の水槽があるんだ?』
と、まじめな顔で僕に聞いたけど、僕はそれに答えられなかった。たま
たま僕らは歯医者で一緒になったのだ。
★★★
そして夏休みの14歳と11歳はならんで、しばし無言になった。沈黙
に耐え切れず、「またぱっつんにしたんだね。前髪変だよ」言ったら、
思いっきりひっぱたかれた。でも僕は《ちか》ちゃんにひっぱたかれる
のが好きだから、ホントはわざと言ったのだった。チカちゃんは友達に
小学校から行ってるおっさん床屋「キクチ理容室」で髪を切っているこ
とを隠している。
★★★
午後、家に帰ってから留守番を頼まれる。こんなときに限って、誰も遊
びにこない。いや、山岡くんが来たのだけど、山岡君が前に遊びに来た
とき、電話の横に置いてあった二千円がなくなったことがあったので、
それ以来、家に上げてはいけないことになっていて、僕は適当に嘘を言
って山岡君を帰してしまった。ギラギラ光る――、
夏の日差の中、山岡君の後姿はまるで「つげ義春」の一コマみたいで。
★★★
夜、寝る前に絵の宿題をやろうとして、画用紙を広げた。《夏の一番の
思い出》というテーマだった。僕は4Bの鉛筆を出して、歯科助手の巨
乳が僕の顔にのってる絵を描いて。…まさかね。と破り捨てる。
僕がマスターベーションを覚えるまで、あと2年3ヶ月あった。
■チカちゃんと「キクチ理容室」と巨乳と
−IRO& CHEMICAL CORPORASHIONS


