――大人になって、初めて食ったものがある。
ドリア。レバ刺し。イカ墨のパスタ。もずく。……大体、マックだって、 東京に来てはじめて食っ
たし、喫茶店でコーヒーを飲んだのも東京に来て
から。第一、田舎の人に、サテンで、時間を潰す
なんて発想はない。 国道沿いに『ドライブイン』
や『パチンコ屋』や『ラブホ』は鬼のようにあって
も、喫茶店は存在しないのだ。そして今日、運命の日……。
ステーキ屋で家人と肉を食ってると、隣りの席に家族連れが来た。ひと
しきり肉と戯れた後、ふと隣りを見ると、小学生の姉妹が、ステーキを
食っているのだ。俺は大人になってちゃんと市民税や健康保険を払うよ
うになってはじめて、ステーキを食べれるようになった。いや、ステー
キとは名ばかりの代物を、母ちゃんがコープで買ってきて、それを食っ
たこともあるが……それが………この、まだ初潮もまだってガキが、ス
テーキを食って、しかもほとんど手をつけず残して『ラブ&ベリ』のカ
ードフォルダなんか眺めているのだ。
俺は、よほど『それ、食べないんだったら、いい?』って言おうかと思
った。畜生。ガキは、ベタにハンバーグだろう。どうして?どうして?
どうして何だ?と呟いて、俺は自分のふがいなさに、唇を噛みしめた。
―――東京。この街が憎い。
俺はいつか小金をこつこつ溜めて。娘が生まれたら成城に引っ越すのだ。
そして、娘を自分の家から成城大まで歩いて通学させるのだ。それを俺
の一生をかけた復讐劇にしようと思いながら、店を出た。春の宵の風が、
こころなしか冷たかった。
■娘が生まれたら成城に引っ越す腹を決めた
−IRO& CHEMICAL CORPORASHIONS


