2005年06月14日
《ファーストキスはレモン味》 あとがきにかえて
本作品は基本的には俳句雑誌「閑古鳥」(アコナイト出版)に掲載されたものに、
書き下ろしを含め、単行本化したものである。初出は次のとおり。
(書き下ろし作品)
●これからもずっと一緒にいられますように
●ことば足らずのウサギ、台風を待つ
●シャガールの夜、僕らコンビニへ
●君のためにメロンの皮まで食べた
●しゃべりすぎたネコと言葉足らずのウサギと
●パトラッシュに会えそうな夕暮れ時は
(雑誌掲載作品)
●タイムトラベラーは夢を見ない 「閑古鳥」平成15年春号
●箱根、黒たまごラプソディ 「閑古鳥」平成15年夏号
●ハクション大魔王は帰って来ない 「別冊閑古鳥」平成15年
●そうして、赤い月が昇る 「閑古鳥」平成16年秋号
●天井に湯上り天使が舞うとき 「閑古鳥」平成17年増刊号
●あの日、僕らシャボン玉祭り 「アコナイトファン」平成17年VOL@
●悪者の一人もいないホームルーム 「アコナイトファン」平成17年VOLD
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《ファーストキスはレモン味》
2004 12 29 初版第一刷発行
2005 05 06 初版第二刷発行
著者/ イロ室長(相馬色ノ介)
(C)愛するより愛され隊企画
発行者/千葉たくや
印刷所/八王子大王乳業
発行所/アコナイトレコードメディア事業部
2005年06月13日
《ファーストキスはレモン味》〜これからもずっと一緒にいられますように

何も考えずに、その一日一日が、ただ楽しくて、何の根拠もないのに、
期待していて、未来は楽しいはずで意味もなく浮かれていた。そんな
可愛げのあった頃の『12月31日、PM11:30』………。
家族の人を起さないように、自転車のベルをおさえ気味にチリンと鳴ら
すと、カーテンが少し開いて、マフラーを巻いたシュウちゃんが、『も
う、準備できてるよ。』って笑って小さく手を振った。
風のない夜、銀色の月は頭の真上に小さく貼りついている。
何も動くものはない。真昼のような通りにガードレールが
白く浮かび、真夜中の信号機が、点滅を繰返していた。
自転車の後から背中に横顔をのせる君の、そのままの重みが暖かかった。
『ねぇ。アタシ。ずっとこうしていたいなぁ。』
★★★
――何てお願いしたの?
これからも、ずっといっしょにいれますように。って。
その未来を信じて疑うことを知らない素直な瞳の輝きだけ、今でも忘れる
ことができない。でも僕らはその場にとどまることができなくて。その言
葉だけうつろに響く。もう誰もいないのに。
ねえ、アタシ、ずっとこうしていたいなぁ。
■ファーストキスはレモン味《これからもずっと一緒にいられますように》
2005年06月05日
《ファーストキスはレモン味》〜ことば足らずのウサギ、台風を待つ

――もっと感情を出しなよ。と言ってくれた。
笑ってくれた。抱きしめてくれた。手をつないでくれた。話を聞いてく
れた。一緒にすごしてくれた。俺のようになってはいけないと微笑みな
がら、頭をなでてくれた。本当はやさしい子と言ってくれた。
癒しきれない諦めを背負いつつも、淡い日差しの中に、僕らはいつ
も何かを夢見て、つまらない連中と周りをバカにしながら、同じく
らい自分を責めながら、終わりのない葛藤をポケットの中にもてあ
ましている。
――でも、それは、ほんとうは、とてもツライこと。
★★★
出会いって、はじめから別れを含んでるものだと思った。だからアタシ
は、あなたとの出会いを、とても大事な出会いのように感じた。変われ
ると思った。バイトの帰りに自転車を押しながら坂道で、もし。あの人
と出会えなかったなら、それなりに幸せだったのかもしれないと、ひね
くれて考えてみたりした。強く惹かれる分、痛みも多くて、ツライ時間
の方が増えてきて。
空が暗い。台風が関東に近づく7月。雨の匂いは少し懐かしくて、アタ
シは、夕立の幼稚園で、ひとり「ねんど」で遊んでいた午後の、その手
触りをなぜか思い出した。
■ファーストキスはレモン味《ことば足らずのウサギ、台風を待つ》
2005年06月01日
《ファーストキスはレモン味》〜シャガールの夜、僕らコンビニへ

台風が来るというので、まっつんの家に集まって、寝ないで台風情報を
まったりと眺めていると、最近、オオトモ君とうまくいってないカナち
ゃんが来て、あわててまっつんが、トモっちに『来るな』メールをした。
コンビニの灯りに誘われて、僕等は台風を待ちながら、何か変わること
にいつも期待しながら、いつもがっかりしながら。そんな毎日で。
それから、カナちゃんがみんなから離れて歩くのが可哀想で、並んで歩
いてあげた。
――イノウエ君がカレシだったらよかったのに。
という冗談にもならない冗談をカナぶんは言うので、僕は思いっきり
「お前、何言っちゃってんの?はははは。」と笑ってうやむやにして。
でも本当は、こんな女の子は嫌いじゃないのです。
★★★
もしも幸せが人の数だけ、夢の数だけあるのだとしたら、僕らの幸いは
きっとまだまだ未来に隠されているのでしょう。僕らはきっと『おたの
しみ袋』みたいに。わくわくしながらその時、開るのでしょう。
そんな切なさの中に、僕らは生きている――。
■ファーストキスはレモン味《シャガールの夜、僕らコンビニへ》
2005年05月30日
《ファーストキスはレモン味》〜君のためにメロンの皮まで食べた

いじわるな君はそうやって東京の自慢ばかりして、その度にむきになっ
て反論してた夏休みはあと数えるばかり。お墓参りも、花火も「夏休み
の宿題」も終わって、足元を涼しい風が、虫の声とともになぜて消えゆ
く季節がそっとやって来て。
友達でもなく、ましてや恋人でもなく、家族でもない、僕等はちょっと
ばかりの血のつながりと、おなじ世代に偶然生まれて、耳の形が似てる
というだけの、「いとこ」どうしだったわけで。
コテージから松林の小径をふたりで抜けて、ストライプの水平線を目指
した。僕がいつも追いかけた、君のその、目の前の忙しげに動く、赤い
ビーチサンダルが遠くなる、次第に涼しくなっていく風とともに。
無口になった君は、店じまいした《海の家》のシャワー室の陰にに立ち
止まり、振り向くと黙って僕の右頬に「スヌーピー」のシールを貼りつ
けた。
★★★
それから「ちゃんと手紙書いてね……。」と言って、「メロンの皮は食
べないほうがいいよ。種も。盲腸になるから」と寂しげに笑った。
――来年の夏も会える?と、僕らは二人とも言えなかった。
■ファーストキスはレモン味《君のためにメロンの皮まで食べた》
2005年05月29日
《ファーストキスはレモン味》〜あの日、僕らシャボン玉祭り

――僕等ふたりは、病的なまでに、この街を嫌っていた。
彼女は腹痛で、僕は頭痛で、5時限目の「芸術」の授業をさぼった。僕
らは友達でも、恋人でもなかった、趣味だってまちまちだし、話だって
合わないし、共通の友人がいるわけでもなかった。しいて言えば『さぼ
り仲間』だった。
学校の駐輪場で待ち合わせると、なんとなく退屈で、致命的に憂鬱な、
今しか経験できない時間を、防波堤の陰に座って、いつも、ぼんやりや
りすごした。そうして、夕方までのちょっとした時間をクラスメイトや、
生まれ育った街の悪口を言って過ごした。
僕等ふたりは、ほとんど病的なまでに、この街を徹底的に呪っていた。
それだけが共通していた。それだけがふたりをつなぎとめているもの
だった。昼間の月がうっすらと輝くまで、冷たく硬いコンクリの感触
も忘れて、「この街を出る計画」について語り合った。
3月。僕が「東京行き」の電車を待つホームに彼女の姿はなかった。
彼女は街に残った。街の小さな信金に就職したのだった。
★★★
その年の5月、携帯に彼女からの着信があったけど、僕は故意にその電
話を無視した。夏休みになって帰省し、信金のとなりにあるコンビニに
寄った時に何度か電話してみようかと思ったけど、どうしてもできなか
った。どうしてもできなかった――。
■ファーストキスはレモン味《あの日、僕らシャボン玉祭り》
2005年05月25日
《ファーストキスはレモン味》〜天井に湯上り天使が舞うとき

――友達は作らない主義なんだと「強い瞳が」悲しげに笑った。
強い瞳を持っている人がいて、それは惹きこまれるような色をしていて、
すべてを拒絶して受け入れない瞳だった。強い瞳は、どうしようもなく
やさしくて、ときどきすくいようもなく、冷たかった。
強い瞳の前ではウソがつけなくて、私は誰にも言ったことのないような
くだらなく、子供じみた将来の話をしたりした。強い瞳は、笑いも軽蔑
もせず、ただ、じっとタバコの煙を見ていた。
★★★
アタシもあんな瞳になれたらと、鏡の前で一生懸命練習して、なんとな
く、さまになってきたなと思ったころ、今まで見えなかったものが見え
てきて、終わりのない悲しみが私をすっと包んだ。
ビルに大きな画面のある交差店で、アタシたちは、はじめて出会って。
学校の近くのバス停で、ふたりで授業をさぼった帰りに見た6月の風景
が、アタシたちが過ごした最後の時間になって。それから――。
今まで見えなかったものが見えてきて、終わりのない悲しみが、私の瞳
に深い彩りを添えて、ぼんやりと、にじんで消えた。
友達は作らない主義なんだと「強い瞳が」悲しげに笑ってる。
■ファーストキスはレモン味《天井に湯上り天使が舞うとき》
2005年05月22日
《ファーストキスはレモン味》〜タイムトラベラーは夢を見ない

やるべきことから目をそらして、君のアパートに入り浸っては、愚痴ば
かり言ってた。どんなときだって、どんなに僕が無理やりのこじつけで
自分を正当化しているときでも、君はずっと嫌な顔ひとつしないで、最
後まで聴いてくれた。ただ笑うだけで、ただ見つめるだけで、ただそれ
だけで――。
身を切るようなやさしさに包まれながら、何も知らずに君を裏切ってい
たとしても。どうしようもなく君は僕の味方で、ひどい言葉で君を責め
たとしても。
『だって好きになったものはしょうがないじゃない………』
と、すこし悲しそうにうつむき、君はぎゅっと唇を噛みしめるんだ。
あのアパートの古い階段も、部屋の前で手を振って見送ってくれた姿も、
土手から漂う、夏草の匂いも。そうだね。僕らはもうあの時代には戻れ
ない。今、遠くから眺めているだけで、手を触れる事はできないんだ。
『今』僕等は『あの時代』を変えることはできない。『今の気持ちや
感情』で『あの頃』を変えることはできない。ただ、君が駅のホームで
「がんばってね………」と、さみしげに笑って。だから。
僕は今、もうあの街に帰れないことだけ分って、だけど、ここにいる理
由がわからないまま、君を思い出している。夏草の匂いがする――。
■ファーストキスはレモン味《タイムトラベラーは夢を見ない》
2005年05月20日
《ファーストキスはレモン味》〜箱根、黒たまごラプソディ

――横顔を見ながら不思議な人だと思った。
しゃべることにも飽きて、私はぼんやり窓の外を見ていた。「厚木」に
入った246は、大渋滞で私達は立ち往生していた。信号待ちしてる右
側に、レンタルビデオがあって、「戦場のピアニスト」のポスターが張
ってあった。そういえば、まだ見てないなあ………。もう一時間近くこ
うしている。うんざりすることにも疲れた。
ハンドルを握るタカハシ君は、いっこうにそんな気配を見せない。
★★★
「どうしてこの人はアタシにこんなに親切なんだろう?」箱根で買った
寄木細工を弄びながら思う。タカハシ君がアタシのことを好いていると
考えるのは簡単なことだけど、なんだかそれも違うような気がして、ア
タシはまた横顔をちらりと盗み見て、不思議な人だと思った。でも、も
し本当にアタシに恋愛感情を持っているとしたら、今のアタシは徹底的
にこの人を避けるだろう。
『チャコが俺のこと嫌ってないから。俺に会った人はみんな幸せになら
なきゃならないんだ。』
なんだよそれ。『そうゆうこと』わかんないよ『いつかわかるのさ』
変人なんだ?『どうもありがとう』………ほら、青だよ――。
■ファーストキスはレモン味《箱根、黒たまごラプソディ》
2005年05月19日
《ファーストキスはレモン味》〜ハクション大魔王は帰って来ない

《東京から転校してきたオオツキさん》が、掃除当番で二人でゴミを焼
却炉に運ぶ途中話しかけてきて。そのようにして、僕らは仲良くなった。
『二上君。すごい気をつかってるけど、ときどき周りをすごくバカにし
たような目でみてるよね……だってアタシも同じこと考えてるもん。』
★★★
それからすぐに彼女は、学校に来なくなった――。来れなくなったのだ。
医療センターのロビーまで、彼女は僕を送ってくれた。僕はうなだれて、
コンバースに付いたシミを見ていた。ワックスの効いた、リノウムの床
を見ていた。彼女は酔っぱらいのように僕の肩に手を回し、空いた左手
で、僕のわき腹をぐりぐりした。彼女のラズベリー模様のパジャマは、
洗剤と太陽と、そしてすこし汗ばんだ匂いがした。
『ちゃんと忘れなきゃだめよ。アタシのことも。アタシ達のことも。』
「………。」『できる?』「………うん。」『よろしい。』
それから、彼女は「ハクション大魔王」の最終回の話を僕にしてくれた。
簡単に言えば、僕にとって彼女はそんな人だった。
■ファーストキスはレモン味《ハクション大魔王は帰って来ない》
2005年05月18日
《ファーストキスはレモン味》〜しゃべりすぎたネコと言葉足らずのウサギと

しゃべりすぎたネコは、後悔ばかりしていました。しゃべりすぎた日の
晩は、ベットに座って、いつまでも嫌な気持ちがぬけないのでした。そ
してやはり、後悔ばかりしていました。
言葉たらずのウサギは、諦めてばかりいました。誰にも言えない言葉を
いつまでもポケットに入れておくので、言葉はくしゃくしゃになって、
みずぼらしいばかりのモノになっていました。
『今度さ、ガールフレンドを連れて、可愛い僕を見に来ればいいよ。』
そんなつもりはないのに、みんなに妬まれてばかりのレッサ―パンダが、
自分の辛い立場も忘れて、しゃべりすぎたネコにメールをくれました。
きっとみんなそんなつもりはないのに
そんな風になってしまっちゃって「どうして?」と思いながら
時間だけ過ぎてゆくのでしょう
うまくいきたいのにいかなくて、やさしくなりたいのになれなくて、会
いたいのに会えなくて、愛したいのに、愛せないのでしょう。
★★★
言葉足らずのウサギは、春の窓辺に寄り添って、心地よい宵の風に身を
任せながら、言葉にならない気持ちを思いつくだけ並べると、そっと日
記を閉じました――。
■ファーストキスはレモン味《しゃべりすぎたネコと言葉足らずのウサギと》
2005年05月16日
《ファーストキスはレモン味》〜そうして、赤い月が昇る

マリーナへ行って、「駐車禁止」の看板の前に車を止めた。風に飛ばさ
れそうな帽子を必死で抑える君の写真をとって、ふたりで並んで歩きな
がら、名物の『マグロまん』を半分ずつ食べた。
春になればきっと、何かが変わってしまうのが怖くて、この2月の終わ
りに、僕らは、さっきからずっと立ち往生している。
「3月になったら、河口湖に行こうね。」
という君の言葉をなげやりに聞き流す。僕らは永遠にとどまることを知
らない、夏の日の逃げ水のように。慰めの言葉すら浮かばない自分が嫌
いになりそうな今を。せつなさの中に握り締めているこの「やましさ」
を秘めて、せいいっぱい、
――それからを漂うように生きていこう。
遠い波打ち際にしゃがみこんで、いつまでも貝殻を拾いつづける君を、
見守りながら、そんなことを考えて、ポケットにライターを探した。
そうして、赤い月が昇る。
そうして、あたたかい宵の風が吹き、4月になれば彼女は――。
■ファーストキスはレモン味《そうして、赤い月が昇る》
2005年05月14日
《ファーストキスはレモン味》~パトラッシュに会えそうな夕暮れ時は

気が遠くなるような夏の夕暮れだった。高台のバス停からは、昼間遊ん
だ小さな入り江が見えた。目をこらすと、帰る必要のない地元のガキど
もが、太陽の残り日を浴びて、執拗に飛びこみを繰返していた。君がい
たずらな目で昼間に、『あそこまで息継ぎしないでいけたら、付き合っ
てもいいよ。』と言った、あのブイも、今は心なしか寂しげにプカプカ
揺れている。
僕らはとても仲のよい友達の一人だったけど、お互いの存在で、相手を
しばりつけるわがままを気軽に言えるほどの関係じゃなくて、だからな
のか君はしゃがみこんだまま足元を見つめて
『ふたりでなんか来なきゃよかった。』と泣いた。
★★★
影法師が二つ並んで、ガードレールで不器用に屈折してる。ヒグラシの
長い余韻でふたり心細くなって、このままふたり終わりのない黄昏に消
え入ってしまえれば、なにも心配することなんてなくなってしまうのに。
パーカーのフードをすっぽり被せて、涙を指ですくいとると君は、
『アタシ、ブスになってるでしょ?』
って、しゃくりあげながら笑った。何も言えない僕は、バスタオルで君
の顔全体を乱暴にゴシゴシこすった。君は泣いているのか笑っているの
か、わけ分からなくなって、はしゃいだ声をあげるんだ――。
長い夏の夕暮れに、僕等はバスを待っていた。
ヒグラシの鳴く心細い夕暮れに、僕等はお互いを待っていた。
■ファーストキスはレモン味《パトラッシュに会えそうな夕暮れ時は》
2005年05月13日
《ファーストキスはレモン味》〜悪者の一人もいないホームルーム

シュウちゃんは、JR国立駅のホームで高尾行き特快のドアが閉まる瞬間、
「誰も、このままで、いることなんか、絶対、できないんだ。」
と切れ切れに言いました。僕はその顔を見ました。薄くすいた、前髪の奥の
寂しげな瞳を見ました。やがて窓に貼りついた6月の雨が、集まり風をつた
って、涙のように流れて消えていきました。
★★★
本当のシュウちゃんは、まだきっとあの音楽室にいると思った。
逆光のピアノ。放課後の音楽室。遠い喧騒は間延びして、かすかに届いては
消えゆく。『こわれやすい気持ち』を集めて、華奢な指で何度もかきあげて、
誰もたどりつけないところへ隠そうとした君に。
出会うべくして出会ってしまったのならば、悲しむべくして、僕らは、何日
も泣いて暮らすのだろう。『それもアタシの一部ならば、黙って見捨てるわ
けにはいかないじゃないか』と君は諦めて、そうして、誰も君にはなれない
という宿命にも似た運命を、黙って背負ってゆくのだろう。
★★★
『年末のメリーゴーランド』と、シュウちゃんは笑った。終電を逃した僕等
は、意味もなく新宿駅を南口から東口へ東口から西口へ、ぐるぐる回ってい
る。僕らのポケットには合わせて1000円もなかった。5時半になったところ
で、シュウちゃんは小田急へ、僕は京王線に乗って別れた。それが「シュウ
ちゃんと過ごした」最後の日になった――。
■ファーストキスはレモン味《悪者の一人もいないホームルーム》
−IRO& CHEMICAL CORPORASHIONS


