2005年10月07日

■《めばえ》 今夜すべての物語にハッピーエンドを

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――この物語は
   青春ノイローゼと戦いながら
   愛を捜し続けた一人の男の
   壮絶な記録である。

          (「アコナイト旬報」より)



           ==《めばえ》ぼくのせいちょうにっき INDEX==

ワンカップ大関で神様が笑って僕らイロさん一回しゃべったらもう‘俺の女’きどりですよね
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホになりたかった日曜の午後に彼女が来て一緒にアルバムをみるような時間
朝から軽く頭痛がしたヴァージンキラー先生、佐藤ゆいちゃんのリコーダーを盗んだのは僕です
親しさを冷たさで表す人と言われて彼女は何処にていても「感じのいい人」でありつづた
6月の組曲・君の傘が人ごみに消えてゆく助手席の彼女をそっと「ついたよ」と揺り起こした
女の子の部屋には一人で上がらないルール泣きながらちぎった写真を手のひらに繋げてみるの
想像することをジョンと約束したから僕は始業式、ポニーテールの君はパラゾールの匂いがしたね
馬小屋を火事にしたのはセーラに決ってるわ!2月の日溜りで僕と君は遅い春を待ち望んでいた
アイツもだんだん所帯じみてくるなぁ…そしていつか眩しげに、この季節を眺めるんだ
いつかまたこの場所で君と巡り合いたい男っぽい大きな字を書く女の子に会いにゆく
タバコ屋の看板娘を探す旅’2005 夏――。空っぽの下駄箱に君のネームプレートだけ残ってて
朝起きて「おはよう」と言える幸せとか本当にひとりぼっちの人間なんていないのだ
イロ君、今日は泊まっていったらどうだ? 


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       〜あとがきという名のお手紙〜

さて、長い間ご愛顧いただいた《めばえ ぼくのせいちょう日記》です
が、ここで物語を一旦閉じようとおもいます。それにつきましては色々
あるのですが、一つは、なんだか最近やりきれなくなったことと、きっ
と本当の《愛》なんて探すものではないと思ったからです。

――そう。《愛》ってきっと心の中にはじめからあるものだから。

最近、とみに神がかっている僕はそれにようやく気づき、今、誰にもた
よることなく、はじめて、自分の足で、世の中と向かい合おうとしてい
ます。期待に胸をふくらませ、そして同じくらいの不安をいだいて、で
もやっぱり後悔だけはしたくないから………。

希望の光を足元に照らしながら、今道なき道を歩もうとしている――。


       平成17年10月 カインズホーム白山店にて 著者

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                            ■《めばえ》ぼくのせいちょう日記 《完》

2005年10月05日

■《めばえ》想像することをジョンと約束したから僕は

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)
 
 
――違うよ。「経験」も大事だけど、
  「想像」することが君に深みを与えていくんだ。

だるい。何もやりたくない。生きていかなければならないから、仕事に
は行く。一応、テレビも見る。そして寝る。ベットに入り、眠りにつく
かつかないかの時間は、嫌なことばかり思いつく。そしてそれは、避け
られない「予言」みたいに今日も、明日も、つづく――。

《自分の足りない部分を埋めようとするのが恋愛ならば、喪失感をかか
 えたまま永遠に漂うのだろう。捨てるに捨てられない未完成のパズル
 を抱えたまま、それでも僕らは生活して、今日も働いていく――》


空っぽの、ネームプレートだけが残る、君の下駄箱を見るたびに、僕は
どうしようもないくらい悲しくなります。『もう、いない人なんだから、
剥がしてしまえばいいのに』と、いつも思って、でもそれは・対、自分
ではできないことで。

  ★★★

――ぱっと見は、とても健全な人。年相応の常識と社会性がある。

と《亜美ちゃん》が言う。でも、同時に、深すぎる静かな闇を自分の中
に抱えこんだ複雑な人間
。と《亜美ちゃん》が僕を言う。



                      ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記
  

2005年10月03日

■《めばえ》彼女は何処にていても「感じのいい人」でありつづた

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)
   


――人から「少し足りない人」と言われるぐらいがちょうどいい

《ユウコ》は昔から要領や飲みこみが早く、なんでも、人より手際よく、
そして、上手にできちゃう子だった。先生も、親も、クラスのみんなも、
がんばれば頑張るほど、ほめてくれた。それがうれしくて、何でも一生
懸命やった。そして、

中学生になって、それをよく思わない人がいることを知った

 ★★★

それから、結果をコントロールすることを覚えた。成績もクラス活動も
部活も、バイトも、仕事も、ちょうどいい結果と、ポジションを求め、
また、確実にそれをモノにしてきた。

だから、彼女はどこにいても《感じのいい人》だったし、誰からも好か
れる人でありつづけた。彼女にとってそれは簡単なことだった

ただ、どうしても本気にならざるを得ない場合だけ。彼女は本気になっ
た。そして、そういうことがあった後は、大抵みんな、あ然とし、距離
を置くようになった。

『足りない』と思われるぐらいがちょうどいいわね。と《ユウコ》が言
う。ふたりきりの休憩で「アタシの秘密、教えたげる」と笑ったあとに。




                      ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

■《めばえ》2月の日溜りで僕と君は遅い春を待ち望んでいた

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)
 

 
――昼にココイチのカレーを食べた

どうも服についたカレーの匂いがとれない。会う奴、会う奴「カレー食
べたでしょ?」と言う。もう、うんざりしていた頃。妹弟子の《のっこ》
が来て、「あ、師匠、昼はカレーでしたね?」と言う。俺は切れた。

   何なんだよ、お前ら!畜生!ああ、そうだよ。そうだよ。
   カレー食っ たよ。食いましたよ。
   昼飯はカレーをくーいーまーしぃた。………悪いかよ!

 ★★★

――「日だまり」は好きだけど、「毛だまり」は嫌だよね。

『食わず嫌い』を見ながら、ふたり、つつましく夕食を食べていると、
ぽつりと、《しぃ》が言う。俺は「ひじき」をつつく箸をふととめる。

「……………………(チッ!)」

食えなくなった。俺はデリケートなのだ。

                      ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

2005年09月30日

■《めばえ》6月の組曲・君の傘が人ごみに消えてゆく

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)

   
――制御システム課の《須藤》の家で焼肉ぱーちーをやる。

肉班の僕らは、二人でダイエーの食品売り場に入っていって。それから
しばらくして、買物カゴ を持った《亜美ちゃん》が、となりで、嬉し
そうに僕を見上げる。

楽しいね。新婚さんに見えちゃったりして。なんかいいなー(笑)

 ★★★

精肉コーナーで、ラム肉を二人で選びながら《亜美ちゃん》が言うのさ。

  いい男っていうのはね。うーん……アタシの基準で言うと、見た目
  でも、性格でも、器量でも、センスのよさでも、頭のよさでも、何
  でもなくて。アタシはさ。いい男っていうのは《女をキレイにする
  男》のことだと思う。


『………………僕は、女の子をキレイになんかしないよ』

《亜美ちゃん》は、じっーと僕の目を覗きこんで、黒目がちな瞳が、イ
タズラっぽく笑って言うんだ。

――どうかな(笑)?

                            ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

■《めばえ》ワンカップ大関で神様が笑って僕ら

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)
 
 
――すごく早い時期に、性行為を経験しなかった?

土曜日。俺がカレーの匂いを気にしながら一日過ごした日だ。屋上は僕
らの場所で、黙ってても居心地がいい関係っていいなぁ。と思いながら、
タバコの煙を空に吐き出す。《亜美ちゃん》が隣りで本を読んでいる。
俺が《mirada》からもらった「萩原朔太郎詩集」だ。

僕らはそんな風に、気が向くまでしゃべらない。ただ居る。

「え?」『そうゆう雰囲気あるよ』「何が?」『早熟だったでしょ?

  ★★★

長い会話をした後は、いつも落ち着かなくて。緊張が解けない。うまく
話そうとするほど、うまく話せなくて。上手にやろうとすると何もかも
上手にできない。「ものごとにこだわらないって昨日君はいったよ」、
《固執しない》《執着しない》って。神様が久々に隣りで言う。

――何一つ、惜しまないこと。全部人にあげちゃえばいいんだ

神様が「ワンカップ大関」を飲みながら笑う。真夜中に。ぼくら。

                      ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記
 

2005年09月28日

■《めばえ》女の子の部屋には一人で上がらないルール

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)
   

「もし、例えば、今、仲のよい人から同時に、電話がかかってきて、
  来てって言われたら、どうするの?20人ぐらい。」


亜美ちゃん。僕はこれまで色んな人との関係を「穴埋め問題」のように
眺めてきたんだ。たとえ僕がダメなら、その人は誰か他の人に頼むだろ
う。そんな様子をどうしようもならないことだと理解してきた。

『それがきっと人間のしたたかさや強さだと思う。だけど、僕はそんな
 ことがらを、どうしても許せずに、ずっと長い間過ごしてきた』

でも高幡にはいくよ。亜美ちゃんが、僕を頼るときは、嘘偽りなく僕に
しかできないことだろうし。

「もし、お風呂掃除をいいつかってたら?」
『ごめん。そんときはすこし遅れると思う』

《亜美ちゃん》は楽しそうに笑って、僕の鼻をきゅっと軽くつねる。

――アタシ、イノウエ君のそういうとこ、大好き。

★★★

それから僕は高幡のマンションの前に車を止め彼女をおろした。『家で
ちょっと休んでけばいいのに』という言葉を遮る。「女の子の部屋には
一人で、上がらない決りなんだ。自分で勝手に作った決りだけど。

《亜美ちゃん》は笑って手を振って。そして僕らの休日は終わった。


                      ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

2005年09月27日

■《めばえ》 朝から軽く頭痛がしたヴァージンキラー

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)

   

――イロちん。もう、ちょっとやばいっス。

土曜出なので、てきとうに仕事をさぼりつつ『東京事変』のDVDを見
ながら《林檎》と一緒に「群青日和」を歌ってると《由美》が泣きそう
な顔でやってくる。

『何だよ』「新しく入ったマシン入。原点に戻らないんだけど。」
『《技術》呼べよ。高林さん、今日、出だろ?』「えー。イロちんがい
い」『………俺、カッコいい?』「かっくぃぃ!かっくぃぃーっ!今、
アタシが抱かれたい男NO1だから
」『ほんと?』「マジでマジで」

多品種Bは新機種で、昨日、初期流動が終わったばかりなのだ。俺は、
クランプの位置とセンサーをチェックしはじめる。手応えあり。

『いけそうだな……』「いっちゃって!いっちゃって!イロっちのフィ
ンガーテクで、もう、ダラダラいかしちゃっていいから!潮、吹かしち
ゃって!!流石ぁ。きゃぁぁぁ!このヴァージンキラー!

どうしてこいつはこんなにバカなのだろう。と思いながら、直した。

                      ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

2005年09月26日

■《めばえ》親しさを冷たさで表す人と言われて

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)
   


《亜美ちゃん》は、俺が渡した「矢じり」を不思議そうに眺めていた。
「弥生時代のものだよ。魏志倭人伝。」それから、僕らは、すこし開け
た日溜りに座って、昼ご飯を食べた。

何かさ。親しくなるほど、突き放されるような印象を感じる

「え?俺?」『うん』「そうかな」『うん。結局………全部拒絶して誰
も受け入れていないんだね』「………。」

『でもアタシは………』

 ★★★

そこから《亜美ちゃん》は黙ってしまった。一生懸命言葉を捜しているの
だけど、どれも違う。そんな感じだった。

「帰ろっか?北野街道、きっと混むと思うんだ。」僕が言った。

僕らはきっと何も残さない。時代の《付箋》のようなものを残すことはし
ないだろう。だけど僕はこの時代を、ふたりですごした季節を、一つの時
代を、君の口ぐぜや、声とか、横顔とか、話してくれたことを、たぶんず
っと忘れないで生きていくと思う。
――そんな気がした。


                         ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

2005年09月24日

■《めばえ》泣きながらちぎった写真を手のひらに繋げてみるの

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)
   

――このあいだの休みに《土器》を拾いにいった。

最近の屋上の友《亜美ちゃん》もいきたいというので高幡までいって
拾ってくる。そして車中の二人。

『え?なんかおかしい?』「ほんとは無口なんだよね。」『………。』
「何か嬉しいな♪」『………』「青だよ。」『あ………。』

『……何でそんなに楽しそうなん?』「だって楽しいもん」『ふつーの
女の子は土器なんて拾いにいかないよ
』「えぇー。アタシをふつーの女
の子だと思ってたんだ?」『………』「赤だよ」『あ…とと……』

「ほうじ茶のむ?」『………遠足気分?』「もちろん」

《亜美ちゃん》は、魔法瓶からお茶を注いで、僕に渡してくれる。懐か
しい匂いがした。色あせたアルバムの写真のような、青と赤と白のビニ
ールシートの思いでのような。

  ★★★

強い性欲が沸き起こるのを感じる。「抱きたい」と思う。体を預けてく
るその、リアルな重みを想像する。ひどく現実味のある『質感を伴う重
』だ。背中に手を回し、その前髪をそっとかきあげて。信号が青に変
わる。唇に手を触れる。彼女は目を閉じる。僕はレーンを追い越し車線
に変えて、トラックを追いぬく。ふぅ――――とため息をついて、我に
返る。いかん。いかん。どう かしてる。

『(北島)さぶちゃん家って、会社の近くにあるらしいよ。』

俺は、どうでもいい話題を切り出す。妄想よ早く消えてくれ。


                         ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

2005年09月23日

■《めばえ》本当にひとりぼっちの人間なんていないのだ

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)
 


――あの子に冷たいこと言っちゃったな。

せっかく冗談を言ってきたのに。しゅんとした顔で、おどおどして、帰
っていった。ほんとうは、ひどく子どもっぽくて、やさしい子だって知
ってるのに。

 《言葉がいけないんだ。言葉がすべてをダメにしちまうんだ》

一日一日を大切に生きること。言葉に頼らないこと。言葉を信じないこ
と。相手の気持ちを感じること。一番いい状態の自分を忘れないこと。
考え過ぎないこと。もっとたくさんの人と話すこと。言葉にすることを
恐れないこと。


  ★★★

そんな《青春ノイローゼ》な決意を呟きながら、玄関をあけると、花が
置いてあった。夕飯の用意をしていた《しぃ》の声が聞こえる。

『美容院からもらってきたんだよ』

――本当に、ひとりぼっちの人間なんていないのだ


                         ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

■《めばえ》馬小屋を火事にしたのはセーラに決ってるわ!

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)
 


――食パンあるでしょ!何で買ってくるの!まったく………!

俺は、服を汚して帰ってきた子どものように、うつむいて、右腿の後あ
たりを掻いていた
。そう、唇をかみしめながら。でも………。

……うるせぇ……白豚……」『何ぃ!』「いえ、あ、すんません。あ
 の、これ、あの、あ!洗い物、僕やります」

 ★★★

――アセトン(非常に臭い液体)がなくなったのでD号館に取りにいく。

と、《由美ぶ》が「イロちん、どこ行くの?」声をかけてくる。『D号
館にアセトンもらいに行くんだよ』「ちょっと、D号館行くときは、声
をかけてっていったじゃん。アタシも三課に用事があるからさ。D号館
いくときは一緒》って朝いったでしょ?」『あぁ』 と俺たちは玄関へ。

「まったくD号館《いくときは一緒》っていってたのに。《いくときは
一緒
》っていったよね?」『うん。』「まったく水臭い。《いくときは
一緒
》って約束してたのに。《いくときは一緒》でしょ?」………。

うるせぇ!てめぇ、ぶっ殺すぞ!

バカなのだ。こいつは、どうしようもなく昼間からバカなのだ。


                         ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

2005年09月21日

■《めばえ》アイツもだんだん所帯じみてくるなぁ………

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)



――風呂と、洗面台と、トイレ掃除しとくこと。《し》

昨日、朝起きると、そんな《メモ書き》がテーブルの上においてある。
ふん。『何ふざけたこと言ってんだ?』俺はメモをさっくり取ると、
キッチンのゴミ箱に捨てた。アイツもだんだん所帯じみてくるなぁ…
……。

それから、ゴム手袋をとりだして、忘れないうちに、午前中のうちに、
終わらせておこうと、バスマジックリンを洗面台の下からとりだす。

――どうして、女っつーのは、風呂場にやたら色んなモノをおくのだろ
  う。


何がなんだかさっぱりわからない瓶とかチューブの類を磨きながら、俺
は昔のガールフレンドたちの風呂場を思い出す。みんなそうだった。俺
なんか、ビオレとシャンプーリンスで十分なのに。

  ★★★

多摩川の土手でタバコを吸う。図書館で午後を過ごす。今日を生きるこ
と で、昨日を忘れてしまう。それを恐れてはいけない。できないと言
う前 にやる。今から、僕は何にでもなれる。どれでも選べる。風が気持
ちい い。そして見上げる空は、高く―高く―高く――。


                         ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

2005年09月20日

■《めばえ》助手席の彼女をそっと「ついたよ」と揺り起こした

 
§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)


――一体、イノウエさんは何がやりたいの?

詰め寄られても答えに困る。 女の子のことを考える。車に乗っている。
どこかに行った帰りだ。勝沼に「ぶどう狩り」に行ったのかもしれない
し、苗場に「スノボー」に行ったのかもしれない。

とりあえず、彼女は疲れて寝ていて。車がカーブするごとに、彼女の前
髪がすこし傾く。寝息は規則正しくて、そのたびに、薄でのブラウスを
羽織った胸が小さく上下する。とても、ぐっすり寝ているのだ。


やがて大きなカーブにさしかかったとき、彼女は僕の肩に頭をもたせか
ける。それでも起きることはない。そのまま僕は運転を続ける。たまに
坂道にさしかかったとき、彼女を起さないように注意しながら、左手で
そっとギアを3速にいれる。

よりかかる彼女の重みは、ひどく遠く懐かしい重みで。とても大切な何
かを思い出させてくれる
。そんな心地よい重み――。

★★★

それがやりたくて教習所に通っていた。と言うと、そうゆうことじゃな
いです、と否定される。車で寝ると口が開いちゃうからお前も注意しな。
男ってそうゆうの引くから。と《まゆこ》『余計なお世話です!』……。

                         ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記
 
 

2005年09月19日

■《めばえ》空っぽの下駄箱に君のネームプレートだけ残ってて


§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)


――海の匂いがするね。

屋上で俺が一人、ノイローゼな妄想にひたってると《亜美ちゃん》が
来てそう言った。俺は無視した。最近誰ともしゃべりたくないのだ。
海の匂いなんかしないよ』俺が言う。一番近い茅ヶ崎までどれぐら
いあると思ってんの?

カモメも飛んで来るんだよ」『ウソだよ』俺はつまらなそうに言う。
じゃ、本とだったら下でジュースおごってね。」『いいよ。

――ほら。と《亜美ちゃん》が指差した先に、カモメが飛んでいた。

おだやかに時間が流れていきます。僕は目の前にいるこの子が、この
子の信頼しきって見上げるその瞳が、悲しくて切なくてしょうがなく
なるのです。


★★★

たくさんのことを考えました。たくさんのことを考えて、君のネーム
プレートだけが残る、空っぽの下駄箱がどうしても目に入ってしまう
ので、また屋上に行って泣いて来ました。仕事なんてまともにできま
せんよ。今頃、小嶋がまた僕を探しているでしょう。

なんかね。とても大事な出会いのような気がしたの。

君が残した言葉――。

                         ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

2005年09月18日

■《めばえ》そしていつか眩しげに、この季節を眺めるんだ


§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)


――最近、誰ともしゃべりたくない。

ので、昼は屋上で一人でパンを食べて、食べたら歌を歌って過ごしいる。
まぐろの王様、町へゆく」は俺が作った中でも、ベスト3に入る名曲
だ。《亜美ちゃん》が「探したよ」と、隣りに座って。それから、しば
らくふたりとも黙っていた。僕は雨が降りそうな6月の雲を仰いだ。
今日、八王子の天気予報は、くもりのち雨――。

『なんかね』「――え?」

『イノウエ君を見てると、いっしょうけんめい生きてるなぁって思
 うのよ。いっしょうけんめい元気で、いっしょうけんめいはしゃい
 で、いっしょうけんめい凹んで、いっしょうけんめいやさしくて、
 いっしょうけんめいムキになってて、いつも、いっしょうけんめ
 い誰かのことを考えているの。』


――いつもアタシはイノウエ君みたいになれたらなぁって思うんよ。

 ★★★

家で――。《しぃ》と「食わず嫌い」を見ながら、卵かけごはんに
しようと思い、卵をがつんとやるとどうも割れない。あ?あ?あれ?
「ゆで卵」だったわけで。「ちょっと!明日のアタシのお弁当のお
かず!!」と本気で叩かれる。

僕は今日もいっしょうけんめい生きている。


                           ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

2005年09月17日

■《めばえ》朝起きて「おはよう」と言える幸せとか


§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)
 


――君は、人に好かれるか好かれないか、ということで生きてるのではな
  かったはずだよ。

そうだろ?となりで神様がショートホープをふかしながら言った。屋上で、
仕事をさぼって、俺がぼんやりしていたとき。神様はいつも突然現れる。
夏の日の夕立のように。

激しく美しく生きたい』君はそうとも言っていた。『いつも何かに夢中
に なっているような、そんな人になりたい』とも言っていたよ。『輝く
激しさ
』 に惹かれるって。

――「怖いんだ。」正直に僕は答える。

『みんなをつき放してしまうから?』神様は空に向って、かったるそうに
煙 を吐き出した。『高く飛ぶことだけを信じるんだ。』そして、高く飛
ぶには ………下を見ちゃだめさ。

★★★

分かり合うことが《愛》ならば「愛」のない僕は、きっと誰のことも分っ
て いないのだろう。分かり合うことが《愛》ならば、分かり合えていな
いとい うことはとても《不幸》なことなのだろう。分かり合おうとして
いるのに、 分かり合えないということはもっと《悲惨》なことなのだろ
う。でも、そん なに簡単に《愛》なんて口にできるわけないじゃないか。


「悲しみを背負った分だけ」強くなれる。最後まで逃げないこと。


                            ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

2005年09月12日

■《めばえ》男っぽい大きな字を書く女の子に会いにゆく

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)
 


――どうしても、その女に会わなければならなかった。

GWのある朝、僕は自分で焼いた「アジのひらき」を食べながら、もう
一度「やっぱり彼女に会わなければならない」と呟いた。朝のワイドシ
ョーでは《尼崎脱線事故》の現場に立ったレポーターが、ずっと解説を
続けていて《清原の500号》について新聞ではコラムを立てていた。

――鏡を見ながら、歯を丁寧に磨いた。

最近、家人が僕の歯についたタバコのヤニや、茶渋(僕は四六時中茶ば
っかり飲んでいる)についてうるさく言うのだ。

 ★★★

ブラッシングの角度を確認しながら、会わなければならない彼女のこと
を意識的に思い出そうとした。言葉を用意していかなければならない。

机に向うとわずかに揺れる髪と、桝目を無視する大きな字と、子供っぽ
い黒目がちな瞳と「COACH」のバッグ。笑うと、えくぼができる。タバコ
は吸わない。三ヶ月前までシステム課の人と付き合っていた。どうして
こんなやっかいごと引き受けちまったんだろう
。呟く。

――しんどい一日になりそうだね。鏡の中の僕が苦笑する。

 ★★★

だからお盆には帰っからよぉ、田んぼだべ?」 実家からの電話で。
 

                             ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

 

■《めばえ》日曜の午後に彼女が来て一緒にアルバムをみるような時間

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)
 

  アタシのことはいつか忘れてしまっても別にいい。
  アタシわかってるから……それはしょうがないから………。
  でも、今日見たこの海だけは、忘れないでいてお願い――。


そう言って彼女は、しばらくの時間、こどものように咽びながら泣いて
いた。Tシャツの生地を通して、涙のぬくもりを感じた。ぬくもり?
涙は温かかった。そう言えばそんな気がした。そしてその「ぬくもり」
は、ずっと昔に忘れてきた何かを思い出させた。

それは日曜日の午後を思い起こさせた。ガールフレンドが家にあそびに
きて、親が何か昼をとってくれて、部屋で中学校のアルバムをみている
ような、そんな(ありふれていてとどかない)時間の「におい」だった。

  あの日の海の色を僕はまだ忘れないでいる。

  ★★★

書籍版『困ったときのベタ辞典』におおかたけりつき、うちあげをやろ
うということになり。うちあげをやる。

湯島で祈願したいということで、2時にまちあわせしたのだが、いっこ
うに落ち合うことができない。俺は「湯島聖堂」にいた。人気のないこ
とをいいことに、縁側?にだら〜と横になって「きもちいいなぁ」と、
木のはっぱを見上げていた。こういう時間って好きだ。

結局、待ち合わせは「湯島天神」だったわけで。

  ★★★

世界中のインコの名前をピーコに変えてしまえ団

で、何かやらなくては、このまま先細りだ。ということになり、「まっ
たり」をモットーに《貝殻ひろいin湘南》をやることに決定する。現地
集合、最後はそれぞれの場所に、さわやかに旅立つこと。が会の掟。


                           ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

2005年09月11日

■《めばえ》始業式、ポニーテールの君はパラゾールの匂いがしたね

§この物語は《青春ノイローゼ》と戦いながら、愛を捜し続けた一人の
  男の記録である。(「アコナイト旬報」より)

 

――今の僕を見て君は 遠い目で笑うかい?

  ★★★

昔、都内に出ると頭痛がした。それぐらい都会の喧騒は、田舎っぺの俺
にとってセンセーショナルだったのだ。《特急スーパーひたち》が上野
近くになると、何故か「ごんべさんの赤ちゃんが風邪ひいた」の音楽が
流れるのだが(詳細不明)、その曲を聴くと、どきどきしたものである。

何が不思議かと言うと、電車の高架線から見る街並みが、地平線まで続
いているのである。――ありえない。人が地平線まで埋め尽くされてい
るのだ
。――ありえねえだろう。俺は、東京という街の空恐ろしさを感
じ、財布だけはしっかり内ポケット、と確認したものだ。

  ★★★

――そうか!走ればいいんだ。

俺は名案を思いついた。何もジムにかよってルームランナーしたり、朝
高尾山を坂ダッシュしなくても、外に出たら色んな場面で駆け足すれば
いいのだ
。大日本帝国海軍方式だ。

というわけで、車から降りたらビデオ屋までダッシュ、ヨーカドーを出
たら、車まで全力ダッシュしてたら、《しぃ》に本気で「やめてくれ」
と言われた。涙目にすらなっていた、いわく、

「トムハンクスみたいだ」と。

うるせ。白ブタ。とシカトして続けてたら「やめろ、つってんだろ!!」
と思いっきり尻を蹴られる。痛い


                           ■《めばえ》〜ぼくのせいちょう日記

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